民泊開業前にやるべき消防対策マニュアル

コラム2025.07.4

空き家やマンションの一室を活用して収益を得られる「民泊」。魅力的なビジネスですが、開業準備を進める中で多くの人がつまずくのが「消防法」の壁です。普段住んでいる家と同じ感覚でいると、「知らなかった」では済まされない重大な事態を招きかねません。

民泊施設での火災は、土地勘のない宿泊者の避難を困難にし、大惨事につながるリスクをはらんでいます。だからこそ、消防法では一般の住宅よりも厳しい安全基準が定められているのです。消防対策は単なるコストではなく、宿泊者の命を守り、あなたの大切な資産と事業を守るための必要不可欠な「投資」です。

このマニュアルでは、これから民泊を開業するあなたが、消防法に関して「何を」「いつ」「どのように」進めればよいかを、プロの視点からステップ・バイ・ステップで徹底的に解説します。

なぜ民泊に厳しい消防法が適用されるのか?

まず理解すべき最も重要なポイントは、消防法上、民泊施設は「一般住宅」ではなく「宿泊施設」として扱われるという点です。これは、不特定多数の人が利用し、宿泊者が必ずしも建物の構造や避難経路に詳しくないという特性を持つためです。

消防法では、このように火災リスクが高い建物を「特定防火対象物」に分類し、一般の建物よりも厳格な防火安全対策を義務付けています。これは、住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づいて運営される民泊も例外ではありません。

特定防火対象物とは?

劇場、飲食店、ホテル、病院、百貨店など、不特定多数の人が出入りするため、火災が発生した際の人命危険性が高いと判断される建物のこと。あなたの民泊施設も、この「特定防火対象物(の宿泊施設)」に該当します。そのため、一般の事務所ビルなど(非特定防火対象物)に比べて、より厳しい消防設備の設置基準や点検・報告義務が課せられます。

STEP別!民泊開業までの消防対策フロー

それでは、具体的に開業までに何をすべきか、4つのステップに分けて見ていきましょう。この順番通りに進めることが、手戻りをなくし、スムーズに開業する一番の近道です。

STEP 1: 最重要!管轄消防署への「事前相談」

何よりも先に、そして必ず行うべきなのが、物件を管轄する消防署の予防課などへの「事前相談」です。内装工事を始めてしまったり、高価な設備を購入してしまったりした後で「その計画では法令違反です」と言われては、目も当てられません。

理想的なタイミングは、物件の賃貸契約や購入前、または内装の設計段階です。この段階で相談することで、余計なコストや手戻りを防ぐことができます。

事前相談に持参すべき資料

  • 建物の平面図や間取り図:部屋の広さや配置がわかるもの。手書きでも構いません。
  • 民泊の運営計画:家主が居住するのか・しないのか(家主居住型/不在型)、宿泊させる部屋はどこか、最大収容人数は何人か、などをまとめたもの。
  • 物件の住所や建物の構造がわかる資料

事前相談では、これらの資料をもとに、あなたの民泊がどの区分に該当し、どのような消防設備が必要になるか、どんな届出が必要かを具体的に教えてもらえます。まさに成功への羅針盤となる、最も重要なステップです。

STEP 2: あなたの民泊に必要な消防設備を洗い出す

消防署との相談で、設置すべき消防設備が明確になります。民泊の規模や形態によって必要な設備は異なりますが、主に以下のものが挙げられます。

消防設備主な役割と設置のポイント
消火器初期消火の必須アイテム。建物の規模に応じて適切な本数を、定められた場所に設置します。
自動火災報知設備(自火報)煙や熱を自動で感知し、建物全体に警報ベルで火災を知らせます。民泊では、ほとんどの場合で設置義務が発生します。
誘導灯停電時でも緑色の光で避難口や避難方向を示します。宿泊室から避難口までの経路に設置が必要です。
避難経路図各宿泊室の見やすい場所に、現在地と避難経路、消防設備の位置を示した図を掲示します。

民泊の強い味方!「特定小規模施設用自動火災報知設備」

従来の自動火災報知設備は、受信機や配線工事が大掛かりで高コストになりがちでした。しかし、小規模な民泊施設向けに、より簡易に設置できる「特定小規模施設用自動火災報知設備(特小自火報)」というものがあります。

これは、無線式の感知器を利用することで配線工事を大幅に削減できるシステムで、工事費用を抑えつつ、法令基準をクリアできる大きなメリットがあります。あなたの民泊でも採用できるか、事前相談の際に必ず確認しましょう。

STEP 3: 消防用設備の設置工事と業者選定

必要な設備がわかったら、次は設置です。ここで重要なのは、「自分でできること」と「資格者(プロ)でなければできないこと」を明確に区別することです。

  • 自分でできること:消火器の購入・設置、避難経路図の作成・掲示など。
  • プロへの依頼が必須なこと:自動火災報知設備や誘導灯の設置工事。これらの工事は、消防設備士という国家資格を持つ者でなければ行うことができません。

信頼できる消防設備業者を選ぶ際は、複数の業者から見積もりを取る「相見積もり」をお勧めします。その際、安さだけでなく、実績や担当者の対応の丁寧さ、消防設備士の資格の有無などをしっかりと確認しましょう。

STEP 4: 消防署への届出と立入検査

設備の設置工事が完了したら、いよいよ最終ステップです。消防署へ正式な書類を提出し、検査を受けます。

主な届出書類

  • 防火対象物使用開始届出書:民泊としての使用を開始する7日前までに提出します。
  • 消防用設備等設置届出書:自動火災報知設備などを設置した場合に、工事完了から4日以内に提出します。消防設備士が作成し、点検結果などを添付するのが一般的です。

これらの書類が受理されると、後日、消防署の職員による「立入検査」が行われます。検査では、届出通りに設備が設置され、正常に機能するかなどがチェックされます。ここで問題がなければ、消防法上の手続きは完了となり、晴れて民泊をオープンできます。

開業後も忘れずに!継続的な防火管理義務

無事に開業できた後も、消防に関する義務は続きます。安全な運営を継続するために、以下の2点を必ず覚えておきましょう。

消防設備点検と報告の義務

設置した消防設備は、定期的に点検し、「正常に機能します」という結果を消防署に報告する義務があります。

  • 点検頻度:6ヶ月に1回の機器点検、1年に1回の総合点検
  • 報告頻度:特定防火対象物である民泊は、1年に1回の報告が必要です。

この点検・報告は専門知識が必要なため、通常は消防設備業者に依頼します。

防火管理者の選任

民泊施設の収容人員が30人以上(従業員含む)になる場合は、防火管理者を選任し、消防署に届け出る義務が発生します。防火管理者は、施設の防火管理業務全般を行う責任者です。

まとめ

民泊の消防対策は、一見すると複雑で費用もかかるため、後回しにしたくなるかもしれません。しかし、これは宿泊してくださるゲストの命を預かるホストとしての最低限の責務です。

今回解説したステップの中でも、全ての始まりであり、最も重要なのは「管轄消防署への事前相談」です。一人で悩まず、まずは専門家である消防署に相談することから始めてください。適切な手順を踏んで安全対策を講じることは、万が一のリスクからあなた自身を守り、ゲストからの信頼を得て、民泊事業を長く成功させるための最も確実な道筋となるはずです。

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